大切な家族が突然亡くなったとき、悲しみの中でも様々な手続きを進めなければなりません。特に、故人がどのような生命保険に加入していたのか、どの金融機関に口座を持っていたのか、株式などの証券を保有していたのかを把握することは、相続手続きにおいて非常に重要です。しかし、故人が生前にこれらの情報を家族に伝えていないケースも多く、遺族は途方に暮れてしまうことがあります。

本記事では、故人の金融資産を調査するための4つの公的制度について、詳しく解説します。
これらの制度を活用することで、故人が加入していた生命保険契約、銀行口座、証券口座、信託契約などを網羅的に確認することができます。


生命保険契約照会制度

制度の概要と目的

生命保険契約照会制度は、一般社団法人生命保険協会が提供するサービスで、故人がどの生命保険会社と契約していたかを一括で調べることができる制度です。この制度は2021年7月1日から開始されており、相続人や遺族が故人の生命保険契約の有無を確認するために設けられました。

日本には40社以上の生命保険会社が存在しており、故人がどの会社と契約していたかを個別に問い合わせることは非常に手間がかかります。この制度を利用すれば、生命保険協会に加盟している全ての生命保険会社に対して一括で照会を行うことができるため、効率的に契約の有無を確認できます。

生命保険協会の発表によると、この制度の利用件数は年々増加しており、2022年度は約2万件、2023年度は約2万5千件の照会が行われました。これは、多くの遺族がこの制度を活用して故人の保険契約を発見していることを示しています。

照会できる契約の範囲

この制度で照会できるのは、生命保険協会に加盟している生命保険会社の契約です。具体的には、死亡保険、医療保険、がん保険、個人年金保険など、生命保険会社が取り扱う各種保険商品が対象となります。ただし、損害保険会社が販売している傷害保険や、共済(JA共済、県民共済、こくみん共済など)は対象外となりますので、これらについては別途確認が必要です。

また、照会の結果として通知されるのは「契約の有無」と「契約している保険会社名」のみです。具体的な保険金額や契約内容については、通知された保険会社に直接問い合わせて確認する必要があります。

利用方法の詳細

生命保険契約照会制度を利用する際の具体的な手順は以下の通りです。

まず、申請方法についてですが、オンライン申請と郵送申請の2つの方法があります。オンライン申請の場合は、生命保険協会の公式ウェブサイトから「生命保険契約照会制度」のページにアクセスし、必要事項を入力して申請を行います。郵送申請の場合は、所定の申請書類をダウンロードして記入し、必要書類とともに生命保険協会に送付します。

必要書類については、照会者の立場によって異なりますが、一般的には以下のものが必要です。故人の死亡を証明する書類として、戸籍謄本または死亡診断書のコピーが必要となります。また、照会者と故人の関係を証明するための戸籍謄本、照会者本人の身分証明書(運転免許証やマイナンバーカードなど)のコピーも求められます。

申請から結果通知までの期間は、通常2週間から3週間程度です。結果は書面で通知され、契約が確認された保険会社名が記載されています。その後、通知された保険会社に個別に連絡を取り、具体的な保険金請求手続きを進めることになります。

利用料金について

この制度の利用には手数料がかかります。1回の照会につき3,000円(税込)の費用が必要です。ただし、災害時や特別な事情がある場合には、手数料が免除されることもあります。例えば、災害救助法が適用された地域の被災者が照会を行う場合は、手数料が無料となります。

注意点と制限事項

この制度を利用する際には、いくつかの重要な注意点があります。

第一に、照会可能な期間に制限があります。死亡日から5年以内に申請する必要があり、それを過ぎると照会ができなくなる可能性があります。したがって、故人が亡くなった後は、なるべく早い段階でこの制度を利用することをお勧めします。

第二に、照会できる人には制限があります。基本的には、法定相続人(配偶者、子、親など)が照会を行うことができます。ただし、受取人に指定されている人であっても、法定相続人でない場合は照会ができないケースもあります。この点については、事前に生命保険協会に確認することをお勧めします。

第三に、この制度で確認できるのは生命保険協会に加盟している保険会社の契約のみです。前述の通り、損害保険会社の商品や各種共済は対象外となりますので、これらについては別途、一般社団法人日本損害保険協会や各共済組合に問い合わせる必要があります。


休眠預金等活用制度

制度の概要と背景

休眠預金等活用制度は、銀行や信用金庫などの預金口座が長期間使用されていない場合に、その口座を「休眠預金」として扱い、相続人が照会・請求できるようにする制度です。この制度は、2018年1月に施行された「休眠預金等活用法」に基づいて運用されています。

日本では毎年、約1,200億円もの預金が休眠預金となっているとされています。これらの預金は、預金者本人が忘れてしまった口座や、相続人が存在を知らない故人の口座などが含まれています。休眠預金等活用法により、これらの休眠預金は民間公益活動に活用されることになりましたが、預金者や相続人が請求すれば、いつでも払い戻しを受けることができます。

休眠預金の定義

休眠預金として扱われるのは、2009年1月1日以降の取引から10年以上、入出金などの「異動」がない預金口座です。ここでいう「異動」とは、入金、出金、振込、口座振替などの取引を指します。ただし、通帳の記帳や残高照会だけでは「異動」とはみなされません。

具体的には、普通預金、定期預金、貯蓄預金、当座預金などが対象となります。一方で、外貨預金、財形貯蓄、仕組預金の一部などは対象外となる場合があります。

相続人による照会の仕組み

故人の銀行口座を探す場合、まず心当たりのある金融機関に個別に問い合わせることが一般的です。しかし、故人がどの金融機関に口座を持っていたか全く見当がつかない場合もあります。そのような場合に、この休眠預金の制度を活用することで、故人の口座を発見できる可能性があります。

相続人は、故人が取引していた可能性のある金融機関に対して、相続に関する照会を行うことができます。照会の結果、休眠預金となっている口座が見つかった場合でも、相続人は払い戻しを請求することができます。休眠預金は預金保険機構に移管されますが、相続人からの請求があれば、元の金融機関を通じて払い戻しが行われます。

利用方法の詳細

休眠預金等活用制度を通じて故人の口座を調べる際の手順は以下の通りです。

まず、日本銀行や各銀行協会に照会を申請します。全国銀行協会(全銀協)では、相続人からの照会に対応する窓口を設けています。また、各地域の銀行協会や信用金庫協会でも同様のサービスを提供している場合があります。

必要書類としては、故人の戸籍謄本(出生から死亡までの連続したもの)、死亡診断書または除籍謄本、相続人の戸籍謄本、相続人の身分証明書などが求められます。これらの書類を揃えて、金融機関または銀行協会に提出します。

照会の結果、口座が見つかった場合は、その金融機関で相続手続きを進めることになります。相続手続きには、遺産分割協議書や相続人全員の同意書なども必要となる場合があります。

注意点

この制度を利用する際の注意点として、まず、休眠預金になる前であれば、通常の口座として扱われるため、金融機関への直接の問い合わせで対応できる場合があります。休眠預金として預金保険機構に移管されるのは、10年以上異動がなく、かつ金融機関からの通知が届かなかった口座です。

また、相続発生から数年以内に手続きを行わないと、休眠預金として国に移管されてしまう可能性があります。ただし、移管後であっても相続人は払い戻し請求ができますので、諦めずに手続きを進めることが重要です。

さらに、全ての金融機関を網羅的に一括照会する公的な仕組みは、2024年現在まだ整備されていません。したがって、故人の通帳、キャッシュカード、金融機関からの郵便物などを手がかりに、心当たりのある金融機関に個別に照会する必要があります。


証券保管振替機構での照会

制度の概要

証券保管振替機構(略称:ほふり)は、日本における証券の電子的な管理・振替を行う機関です。株式や投資信託などの有価証券は、かつては紙の証券として発行されていましたが、現在では電子化され、証券保管振替機構で一元的に管理されています。

この機構では、故人が証券口座を持っていたかどうかを照会できる制度を提供しています。これにより、遺族は故人がどの証券会社に口座を持っていたかを確認し、相続手続きを進めることができます。

日本では2009年1月に株券の電子化(ペーパーレス化)が完了し、上場株式は全て証券保管振替機構の振替制度で管理されるようになりました。そのため、この機構に照会すれば、故人が保有していた上場株式の有無を確認することが可能です。

照会できる証券の範囲

証券保管振替機構で照会できるのは、主に以下の有価証券です。

上場株式については、国内の証券取引所に上場している株式が対象となります。東京証券取引所のプライム市場、スタンダード市場、グロース市場に上場している株式はもちろん、名古屋、札幌、福岡の各証券取引所に上場している株式も対象です。

投資信託についても、証券保管振替機構で管理されているものは照会の対象となります。ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)なども含まれます。

社債、国債、地方債などの債券についても、振替制度の対象となっているものは照会可能です。

一方で、非上場株式(未公開株)や海外の証券取引所に上場している外国株式は、証券保管振替機構の管理対象外となりますので、照会することができません。これらについては、別途、故人の書類や取引履歴などを手がかりに調査する必要があります。

利用方法の詳細

証券保管振替機構への照会手続きは、以下の手順で行います。

まず、証券保管振替機構に「登録済加入者情報の開示請求」を行います。これは、故人が証券口座を開設していた証券会社を特定するための手続きです。

申請に必要な書類としては、故人の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)、死亡診断書のコピー、請求者(相続人)の戸籍謄本、請求者の身分証明書のコピーなどが必要です。これらの書類を揃えて、証券保管振替機構に郵送で申請します。

申請から結果の通知までは、通常2週間から3週間程度かかります。結果として、故人が口座を持っていた証券会社名が通知されます。その後、通知された証券会社に連絡を取り、口座の残高確認や相続手続きを進めることになります。

開示請求の手数料は、1件につき6,050円(税込)となっています。この費用は、相続手続きの必要経費として計上することができます。

注意点と活用のポイント

証券保管振替機構への照会を効果的に活用するためには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。

第一に、故人が証券口座を持っていた証拠(過去の取引報告書や配当金の通知など)があれば、それを手がかりに証券会社を特定し、直接問い合わせる方が早い場合があります。証券保管振替機構への照会は、証券会社が全く分からない場合の最終手段として活用するとよいでしょう。

第二に、照会結果で証券会社が判明した後の相続手続きには、遺産分割協議書や相続人全員の同意書など、追加の書類が必要となります。これらの書類の準備には時間がかかることがありますので、早めに取り掛かることをお勧めします。

第三に、故人が複数の証券会社に口座を持っていた場合、それぞれの証券会社で個別に相続手続きを行う必要があります。手続きの煩雑さを考慮し、必要に応じて司法書士や弁護士などの専門家に相談することも検討してください。


信託協会の信託契約照会制度

制度の概要

信託契約照会制度は、一般社団法人信託協会が提供するサービスで、故人が信託銀行や信託会社に資産を預けていた場合に、その契約の有無を調査できる制度です。信託とは、財産を信頼できる相手(受託者)に託し、特定の目的に従って管理・運用してもらう仕組みです。

近年、相続対策や資産管理の手段として信託の利用が増えています。遺言信託、金銭信託、不動産信託など、様々な種類の信託商品が提供されており、故人がこれらのサービスを利用していたかどうかを確認することは、相続手続きにおいて重要です。

信託協会には、三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、りそな銀行(信託部門)など、主要な信託銀行が加盟しています。この制度を利用することで、これらの信託銀行に一括で照会を行うことができます。

照会できる契約の範囲

信託契約照会制度で確認できるのは、主に以下のような信託契約です。

遺言信託は、信託銀行が遺言書の作成支援から保管、遺言執行までを一括して行うサービスです。故人がこのサービスを利用していた場合、信託銀行に遺言書が保管されている可能性があります。

金銭信託は、金銭を信託銀行に預け、運用してもらう契約です。合同運用金銭信託や指定金銭信託などの種類があります。

不動産信託は、不動産を信託銀行に信託し、管理・運用してもらう契約です。賃貸不動産の管理や、不動産の流動化などに利用されます。

投資信託については、信託銀行が受託者となっているものもありますが、これらは証券会社を通じて購入することが多いため、証券保管振替機構への照会でも確認できる場合があります。

利用方法の詳細

信託契約照会制度を利用する手順は以下の通りです。

まず、信託協会に照会の申請を行います。申請は郵送で行い、所定の申請書に必要事項を記入して提出します。

必要書類としては、故人の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)、死亡診断書のコピー、請求者の戸籍謄本(故人との関係を証明するもの)、請求者の身分証明書のコピーなどが求められます。

照会の結果、契約が確認された場合は、該当する信託銀行名が通知されます。その後、信託銀行に直接連絡を取り、契約内容の確認や相続手続きを進めることになります。

注意点と専門家への相談

信託契約に関する相続手続きは、一般的な預金口座や証券口座の相続に比べて複雑な場合があります。特に、遺言信託を利用していた場合は、遺言の内容によって相続の進め方が異なります。

信託契約の詳細を把握するためには、弁護士や税理士などの専門家に相談することが望ましいです。特に、信託財産が相続財産に含まれるかどうか、相続税の計算にどのような影響があるかなどは、専門的な知識が必要となります。

また、信託協会に加盟していない信託会社や、海外の信託サービスを利用していた場合は、この制度では照会できません。故人の書類や取引履歴を手がかりに、個別に調査する必要があります。


各制度の活用フローチャート

故人の金融資産を調査する際には、以下のような順序で各制度を活用することをお勧めします。

第一段階として、故人の遺品から手がかりを探すことが重要です。 通帳、キャッシュカード、保険証券、証券会社からの報告書、金融機関からの郵便物などを丁寧に確認します。これらの書類があれば、該当する金融機関に直接連絡を取ることで、迅速に手続きを進めることができます。

第二段階として、各照会制度を活用します。 故人の遺品から十分な情報が得られない場合、または全ての金融資産を漏れなく把握したい場合は、本記事で紹介した4つの制度を活用します。

  • 生命保険については、生命保険契約照会制度を利用して、生命保険協会に照会を行います。
  • 銀行預金については、心当たりのある金融機関に個別に照会を行うとともに、必要に応じて休眠預金等活用制度を活用します。
  • 株式・証券については、証券保管振替機構に照会を行います。
  • 信託契約については、信託協会の信託契約照会制度を活用します。

第三段階として、照会結果を踏まえて相続手続きを進めます。 各制度から通知された金融機関に個別に連絡を取り、具体的な残高確認や相続手続きを行います。相続手続きには、遺産分割協議書や相続人全員の同意書など、追加の書類が必要となることが多いため、事前に各金融機関に必要書類を確認しておくとよいでしょう。


相続手続きを円滑に進めるためのアドバイス

早めの行動が重要です

故人の金融資産の調査や相続手続きは、できるだけ早く着手することをお勧めします。生命保険の請求には時効があり、一般的には保険事故(死亡)から3年以内に請求しないと、保険金を受け取る権利が消滅してしまいます。また、休眠預金についても、長期間放置すると手続きが複雑になる可能性があります。

専門家への相談を検討しましょう

相続手続きは、法律、税務、金融など多岐にわたる知識が必要です。特に、相続人が複数いる場合や、遺産の内容が複雑な場合は、弁護士、税理士、司法書士などの専門家に相談することで、手続きを円滑に進めることができます。多くの専門家は初回相談を無料で行っていますので、まずは相談してみることをお勧めします。

必要書類は早めに準備しましょう

各種照会制度や相続手続きには、戸籍謄本や死亡診断書などの共通書類が必要となります。これらの書類は複数部必要となることが多いため、最初にまとめて取得しておくと効率的です。特に、戸籍謄本は故人の出生から死亡までの連続したものが求められることが多く、本籍地が異なる場合は取得に時間がかかることがあります。

記録を残しておきましょう

照会の申請日、結果の受取日、金融機関とのやり取りの内容などは、全て記録に残しておくことをお勧めします。相続手続きは長期間にわたることがあり、複数の相続人で情報を共有する必要もあるため、記録を残しておくことで混乱を防ぐことができます。


まとめ

家族が突然亡くなった場合、故人の生命保険や証券、預金などの金融資産を把握することは、相続手続きにおいて不可欠です。本記事で紹介した4つの制度を活用することで、故人の金融資産を漏れなく調査することができます。

生命保険契約照会制度では、生命保険協会を通じて、故人が加入していた生命保険会社を一括で照会できます。休眠預金等活用制度を理解することで、長期間使用されていない銀行口座についても相続人が払い戻しを請求できることが分かります。証券保管振替機構への照会により、故人が口座を持っていた証券会社を特定できます。信託協会の信託契約照会制度では、信託銀行や信託会社との契約を確認することができます。

これらの制度は、故人が生前に金融資産の情報を家族に伝えていなかった場合に、特に有効です。大切な家族を亡くした悲しみの中での手続きは大変ですが、これらの制度を活用して、故人の遺産を適切に相続していただければと思います。

なお、本記事の情報は2024年時点のものです。各制度の詳細や手続き方法は変更される可能性がありますので、実際に手続きを行う際は、各機関の公式ウェブサイトや窓口で最新の情報を確認してください。